【全入院患者サーベイランスの目的


 院内感染対策サーベイランスの一環として、全国の200床以上の病院のうち本サーベイランスの趣旨に賛同して参加を希望した医療機関の協力を得て、院内感染対策に問題となりうる薬剤耐性菌による感染患者の発生動向等のデータの提供を受け、患者の基礎疾患その他の背景因子、関連因子等を解析した結果を参加医療機関に還元し、また解析結果の要点を広く一般に公開することにより、全国の医療機関において実施されている院内感染対策を支援することを目的とする。
 調査対象菌種としてMRSA、PRSP、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌、多剤耐性緑膿菌、VRE、VRSA、その他危険と思われる薬剤耐性菌を選び、これらの耐性菌による感染患者情報を収集し、データの集計・解析を行い、季報・年報として要点を公表する。季報としては以下の内容を公表する。 


【解説】
 今回の季報(2001年10〜12月)における調査参加施設数は前回とほぼ同数で、総入院患者数はやや増加し197,020名であった。そのなかで薬剤耐性菌による感染症を引き起こした患者数は1,041名で前季よりわずかに増加した。
各月毎に感染症に罹っている患者数を各月の総入院患者数で除したものをその月の感染率(‰)として表し、その月に新たに感染症に罹患した患者数の割合を罹患率(‰)として表した。3ケ月間の平均感染率は5.28‰、平均罹患率は4.13‰であり、平均感染率、平均罹患率ともに前季より低下した。
 薬剤耐性菌による感染症の91.8%はMRSA感染症であり、ついでPRSP感染症、MRSA+多剤耐性緑膿菌感染症、多剤耐性緑膿菌感染症の順で、VRE感染症の報告はなかった。感染症の40.8%は肺炎であり、10、11月と増加したが12月には減少している。次いで手術創感染、皮膚・軟部組織感染が多く、それぞれ12.5%、12.3%であった。MRSA感染症に罹患した患者の基礎疾患は悪性腫瘍が21.9%と最も多く、次いで循環器系疾患13.9%、神経系疾患13.5%、消化器系疾患9.5%であった。診療科別では外科系が多かった。基礎疾患名別の統計情報の収集が行われていないので、基礎疾患名別の感染率は表示できない。
MRSA感染患者の体温分布では37.1〜38.9℃までが54.9%を占め、39.0℃以上19.6%を加えると37.1℃以上が74.5%であった。白血球数分布では10,000/μL以上が47.2%、CRP値分布では1.0〜10.0mg/dL未満が47.1%、10mg/dL以上が36.3%で、前季とほとんど変わりはなかった。

     表1.感染率及び罹患率の推移
表2.薬剤耐性菌別感染患者数
表3.MRSA感染件数の感染症名内訳
表4.MRSA感染件数の基礎疾患名内訳
表5.MRSA感染患者数の診療科内訳
表6.MRSA感染患者の体温分布
表7.MRSA感染患者の白血球数分布
表8.MRSA感染患者のCRP値分布

集計不能なデータを除いたため、表によって計が異なる場合がある。