概要 (2001年7・8・9月分)

本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から検出された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。

2001年7〜9月の間に全国の医療機関より報告された検体数は総数53,082件(血液46,144件 (261施設) 、髄液6938件(222施設))の血液及び髄液から分離された菌種について集計・解析が行われた。この1年間をみる限り総検体数、血液検体数、髄液検体数のいずれも増加傾向にあり、今回の調査では総検体数ではじめて50,000件を上回った。
 
2000年
10〜12月
2001年
1〜3月
4〜6月
7〜9月
 総検体数
44,720
47,047
48,754
53,082
 血液検体数
39,217 (251)
41,387 (247)
43,173 (256)
46,144 (261)
 髄液検体数
5,503 (216)
5,660 (207)
5,581 (219)
6,938 (222)
  ( ) 内は施設数

検体陽性率は血液で13.8%(2000年10〜12月;12.5%、2001年1〜3月;11.0%、4〜6月12.0%)、髄液で5.6%(2000年10〜12月;5.9%、2001年1〜3月;5.1%、4〜6月5.8%)であり、血液検体は今までよりも若干高い陽性率であったが、髄液検体ではほぼ横ばいであった。

血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度はStaphylococcus aureus (20%)、Staphylococcus epidermidis (13%)、Escherichia coli (10%)、Staphylococcus epidermidis 以外のCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌) (9%)、 Klebsiella pneumoniae (5%)、Pseudomonas aeruginosa (4%)、Enterococcus faecalis (4%)と今までの季報と(2000年10〜12月期、2001年1〜3月期、2001年4〜6月期)と同様の傾向を示した。

そのほか従来から院内感染の原因菌として注意が必要とされている菌の分離頻度はEnterobacter spp. (4%)、Bacillus spp. (4%)、Candida spp. (3%)、Serratia marcescens (1.5%)、Acinetobacter spp. (1.9%)、Burkhorderia cepacia (0.8%)であった。

髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度はS. epidermidis (21%)、S. epidermidis 以外のCNS (19%)、S. aureus (18%)、H. influenzae (5%)、S. pneumoniae (2%)であり、S. pneumoniae の分離頻度が減少した以外は前回の季報と同様の傾向を示した。

年齢階層別でみた場合、髄液においてH.influenzae の93.3%で今までの報告と比べほぼ同様の割合であった。(2000年10〜12月期 (74.3%;29/39) 、2001年1〜3月期 (88.9%;16/18) 、2001年4〜6月期 (93.8%;15/16) )

S. aureus の主要抗菌薬に対する耐性度の特徴としては、オキサシリン (MPIPC) の成績で判断する限りでは、血液から分離された572株の72%、髄液から分離された35株の68%がいわゆるメチシリン耐性株 (MRSAを含む) であった。

血液から分離された679株と髄液から分離された37株の黄色ブドウ球菌のバンコマイシンに対する耐性頻度をNCCLS (米国臨床検査標準化会議) の判定基準に従い判定したが、これらの株は全てバンコマイシンに「感性」(MIC、4μg/ml以下) と判定された。CNS、S. epidermidis についてもバンコマイシン耐性株はみられなかった。

腸球菌に関しては、血液から分離された135株のEnterococcus faecalis のアンピシリンに対する耐性頻度を判定したが、88%が「感性」(MIC、8μg/ml以下)と判定された。VRE (バンコマイシン耐性腸球菌)はE. faecalisE. faecium とも前回、前々回と同様にみられなかった。

S. pneumoniae 24株 (血液分離20株、髄液分離4株) のペニシリン耐性株の割合は46% (PISP 21%、PRSP 25%) であり、前回と同様であった。PRSPの割合は前回15%であり、今回は若干増加していた。

H. influenzae 21株 (血液分離9株、髄液分離12株) のABPC耐性株 (MIC、1μg/ml以下) の割合は24%で前回とほぼ同様であった。なお、ABPC耐性H. influenzae の原因としては、β-ラクタマーゼ産生株とBLNARが良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにされなかった。

ESBL産生菌のスクリーニングの基準は、(1) CAZ、CTXなどに対するMIC≧2μg/ml、(2) β-ラクタマーゼ阻害剤添加によるMICの低下、などがあげられる。今回の調査では耐性頻度をNCCLS (米国臨床標準化会議) の判定基準に従い判定したため腸内細菌科の菌ではCAZ、CTXのMIC≦8μg/mlの場合はいずれも「感性」と判定されるのでESBL菌の頻度は明らかにできなかった。しかし、E. coli ではCAZ、CTXに対するMICを測定した株のそれぞれ1%、2%が、K. pneumoniae ではCAZ、CTXのMICを測定した株のそれぞれ6%、4%がMIC>8μg/mlであり、これらの株の中にESBL産生株が存在する可能性も否定できない。

P. aeruginosaS. marcescens ではカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すものがある。特にイミペネム耐性には、IMP-1型メタロ-β-ラクタマーゼの産生が関与しているものがあり、今後広まる恐れがあることからその動向に注意が必要である。今回の調査では微量液体希釈法で測定した194株のP. aeruginosa のうち24%がMIC≧8μg/mlであり、そのうち7%は≧16μg/mlであった。S. marcescens では67株のうち1%がMIC 8μg/mlであった。