検査部門サーベイランスは参加医療機関において血液、髄液検体から分離された各種細菌の分離状況と薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。
2000年10月〜12月の間に全国の医療機関より報告された検体数は血液39,217検体(251施設)、髄液5,503検体(216施設)であり、前回の調査(2000年7〜9月、血液4,899検体(12施設)、髄液355検体(10施設))よりも大幅に増加した。
血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は前回の調査とほぼ同様の傾向を示しており、前回の調査では分離株数が少なかった髄液分離株についても菌株総数に対する主要分離菌の頻度は従来からの報告とほぼ同様の結果であった。
各種抗菌薬に対する主要分離菌の耐性頻度の調査では血液から分離された黄色ブドウ球菌の68%がいわゆるMRSAであった。バンコマイシン耐性株は、今回の調査では黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)、表皮ブドウ球菌、腸球菌のいずれの菌種からも分離されなかった。
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2000年10月〜12月における検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は血液検体で12.5%(2000年7月〜9月;9.8%)、髄液検体で5.9%(2000年7〜9月;9.3%)であり変動がみられたがこれは検体数の差による影響と考えられた。
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血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、黄色ブドウ球菌(18%)、表皮ブドウ球菌(14%)、CNS(9%)、大腸菌(9%)、肺炎桿菌(6%)、緑膿菌(5%)、カンジダ属(4%)、セラチア・マルセッセンス(2%)、アシネトバクタ−属(2%)、バークホルデリア・セパシア(1%)と前回の調査とほぼ同様の結果が得られた。これらの菌種のうち、カンジダ属、セラチア・マルセッセンス、アシネトバクタ−属、バークホルデリア・セパシアなどは輸液ルートを介した院内感染が問題となっているのでその動向には注意を払う必要がある。
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髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、黄色ブドウ球菌(17%)、表皮ブドウ球菌(15%)、インフルエンザ菌(11%)、CNS(10%)、肺炎球菌(7%)と従来から注意が必要な菌が上位を占めていた。また、クリセオバクテリウム属
(0.6%)もみられ、クリセオバクテリウム属のうちクリセオバクテリウム・メニンゴセプティカムは院内感染として新生児、未熟児、免疫不全患者に髄膜炎、敗血症を発症するのでその動向に注意しなければならない。なお、血液や髄液から分離された菌種には検体採取の際に混入した皮膚常在菌によって分離頻度が実際よりも高くなっているものがある。なお、血液検体から分離された各菌種ごとの汚染菌の割合は解説の終わりに添付した。
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年齢階層別では血液分離株、髄液分離株のどちらでも肺炎球菌とストレプトコッカス・アガラクチエで4歳以下と50歳以上の二峰性の集積がみられた。また、インフルエンザ菌の多くは4歳以下の小児から分離されており、従来の報告と同様であった(4歳以下から分離された菌の頻度;血液61%、髄液74%
[年齢不詳群を除いたデータではそれぞれ71%、97%] )。
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【菌種別の薬剤耐性度】
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黄色ブドウ球菌におけるMRSAの割合は血液分離株で68%、髄液分離株で72%であった。この結果は国内における従来の報告とほぼ同様であった。バンコマイシンに対する耐性頻度ではすべての黄色ブドウ球菌がバンコマイシンに対して「感性」と判定された。
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表皮ブドウ球菌やCNSは欧米においてバンコマイシン耐性株の報告がみられているが、今回の調査では黄色ブドウ球菌と同様、全ての株がバンコマイシンに対して「感性」と判定された。
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腸球菌に関しては1996年にVanA型のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウムが分離され、その後1999年にはVanB型のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェカ−リスの集団発生が報告されているが国内での発生はまだ低いと考えられる。今回の調査でもエンテロコッカス・フェカ−リス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・アビウムの全ての菌株がバンコマイシンに対して「感性」と判定された。
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肺炎球菌におけるペニシリン耐性株の割合は血液分離株で59%、髄液分離株で80%であった。近年報告されているペニシリン耐性株の割合は約50%であり、それらの報告と比べると高めであった。
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インフルエンザ菌におけるABPC耐性株の割合も血液分離株で60%、髄液分離株で50%と従来の報告よりも高い頻度であったが、これは分離菌数が少ない上に同じ患者から分離されている菌が多数含まれていることによるものであった。
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肺炎桿菌や大腸菌は本来第三世代セフェム系抗菌薬に対しては耐性がみられないとされているが、今回の調査では第三世代セフェム系抗菌薬に対して耐性を示す株が若干みられた(血液分離株の第三世代セフェム系抗菌薬に対する耐性の割合は、肺炎桿菌の血液分離株においてCTX耐性株2%、CAZ耐性株1%、大腸菌の血液分離株においてCTX耐性株1%、CAZ耐性株4%(髄液分離株は数が少ないため検討せず))。近年、ESBLを産生し、第三世代セフェム系抗菌薬に対して耐性を示す肺炎桿菌や大腸菌が院内感染の原因菌として問題となってきているが、今回の調査で耐性を示した株の中にもESBL産生菌が含まれている可能性は否定できない。
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緑膿菌では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマ−ゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。今回の調査では血液分離株における緑膿菌のIPM耐性株の割合は血液分離株で25%であり、欧米での調査と同様の結果であった。また、メタロβラクタマ−ゼ産生菌はセラチア・マルセッセンスにもみられているが、セラチア・マルセッセンスの血液分離株におけるIPM耐性株の割合は8%であった。しかし、これらのIPM耐性緑膿菌とセラチア・マルセッセンスの中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマ−ゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。
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