
【全入院患者サーベイランスの目的】
院内感染対策サーベイランスの一環として、全国の200床以上の病院のうち本サーベイランスの趣旨に賛同して参加を希望した医療機関の協力を得て、院内感染対策に問題となりうる薬剤耐性菌による感染症患者の発生動向等のデータの提供を受け、患者の基礎疾患その他の背景因子、関連因子等を解析した結果を参加医療機関に還元し、また解析結果の要点を広く一般に公開することにより、全国の医療機関において実施されている院内感染対策を支援することを目的とする。
調査対象菌種としてMRSA、PRSP、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌、多剤耐性緑膿菌、VRE、VRSA、その他危険と思われる薬剤耐性菌を選び、これらの耐性菌による感染患者情報を収集し、データの集計・解析を行い、季報・年報として要点を公表する。年報としては以下の内容を公表する。
【解説】
今回の年報(2005年1〜12月)では、調査参加施設数は67施設で、調査対象となった総入院患者数は752,925名であった。そのなかで薬剤耐性菌による感染症を引き起こした患者数は4,841名であった。薬剤耐性菌別では、MRSA感染症患者は4,284名で、MRSAと多剤耐性緑膿菌との混合感染症患者は66名、MRSAとメタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌との混合感染症患者は3名であった。PRSP感染症患者は215名、多剤耐性緑膿菌感染症患者は101名、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌感染症患者は16名であった。VRE、VRSA感染症の報告はなかった。
感染症患者数を総入院患者数で除した感染率(‰)は6.43‰で、前年(6.59‰)とほぼ同じであった。新規感染者数を総入院患者数から継続感染患者数を引いた数で除した罹患率(‰)は5.11‰で、前年(5.04‰)とほぼ同じであった。耐性菌別の感染率、罹患率はそれぞれMRSA感染症では5.69‰(前年5.94‰)、4.51‰(前年4.50‰)、PRSP感染症では0.29‰(前年0.23‰)、0.28‰(前年0.22‰)、多剤耐性緑膿菌感染症では0.13‰(前年0.13‰)、0.09‰(前年0.09‰)で、前年と大きな変化はなかった。
感染症患者の性別はMRSA感染症患者及びPRSP感染症患者ともに60%以上が男性であった。年齢別ではMRSA感染症患者の60%以上が70歳以上であったが、PRSP感染症では10歳未満が46.5%と低年齢層に多かった。
検出検体をみると、MRSA感染症の検体では呼吸器系が52%と最も多く、次いで血液・穿刺液系(11%)、消化器系(6%)の順であり、呼吸器系の中でも喀出痰が72%を占めていた。PRSP感染症の検体では呼吸器系が93%を占め、その内訳は喀出痰(62%)、咽頭粘液(27%)、鼻腔内(6%)の順であった。
薬剤耐性菌による感染症名の内訳は、MRSA感染症については肺炎が最も多く43.2%で、次いで菌血症(10.6%)、手術創感染(10.6%)、皮膚・軟部組織感染症(8.1%)の順であった。PRSP感染症については肺炎(56.3%)、肺炎以外の呼吸器感染(32.6%)、菌血症(3.7%)の順であった。
薬剤耐性菌による感染症患者全体の基礎疾患名の内訳は、悪性腫瘍が最も多く18.3%、次いで循環器系疾患(17.8%)、呼吸器系疾患(13.1%)、神経系疾患(10.8%)、消化器系疾患(8.3%)、内分泌代謝疾患(8.3%)の順であった。MRSA感染症患者では同様の傾向であった。
診療科別内訳は感染症患者全体では内科系49%、外科系51%であり、MRSA感染症患者では、内科系46%、外科系53%であった。PRSP感染症患者では内科系が90%を占めた。
感染症患者の体温分布を見ると、MRSA感染症患者では37.1℃以上〜38.9℃未満が50.5%と最も多く、39℃以上の19.7%を合わせて37.1℃以上が70.2%で、37℃以下は17.6%であった。PRSP感染症患者では37.1℃以上〜38.9℃未満が57.7%、39℃以上の24.7%と合わせると37.1℃以上が82.4%で、37℃以下が7.9%であった。白血球数分布ではMRSA感染症患者、PRSP症患者とも10,001μL以上が半数を占めた。CRP値分布ではMRSA感染症患者において10.1mg/dL以上は41.3%を占め、PRSP感染症患者では33.5%であった。
抗菌薬の使用状況では、MRSA感染症患者の感染症発症前1ヶ月以内に使用された治療薬は、カルバペネム系抗菌薬が18.5%で,次いでセフェム系第V世代抗菌薬が15.6%,合成抗菌薬が7.8%であった.当該感染症の治療にはバンコマイシンやテイコプラニンに代表されるポリペプチド系抗菌薬が53.5%に使用してあった。PRSP感染症患者では感染症発症前1ヶ月以内に使用された薬剤はセフェム系第V世代抗菌薬が最も多く47.8%で、当該感染症の治療薬の内訳はセフェム系第V世代抗菌薬が23.4%、ペニシリン系抗菌薬22.4%、カルバペネム系抗菌薬16.9%、βラクタマーゼ阻害剤9.5%であった。
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表1.サーベイランス参加施設の規模内訳
表2.薬剤耐性菌別感染症及び罹患患者数の内訳
表3.感染症及び罹患患者の性別内訳
表4.感染症及び罹患患者の年齢別内訳
表5.感染症及び罹患患者の検体内訳
表6.感染症及び罹患患者の感染症名内訳
表7.感染症及び罹患患者の基礎疾患名内訳
表8.感染症及び罹患患者数の診療科内訳
表9.感染症及び罹患患者の体温分布
表10.感染症及び罹患患者の白血球数分布
表11.感染症及び罹患患者のCRP値分布
表12.感染症及び罹患患者の抗菌薬使用状況内訳 |
なお、集計不能なデータを除いたため、表によって計が異なる場合があります。
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