概要 (2005年分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。 【検 体】
○ 2005年に全国の医療機関より報告された検体数は169,130件(血液152,822件(210施設)、髄液16,308件(184施設))であり、2004年よりも約6,000件増加した。 ○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は15.2%(血液検体で16.1%、髄液検体で6.2%)で、全体および血液検体の陽性率は2004年とほぼ同様であったが、髄液検体の陽性率は約1%増加していた。 【分離頻度】 ○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(3.45%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(2.49%)、大腸菌(E. coli)(2.13%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.81%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.87%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.66%)、Enterobacter spp.(0.66%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.62%)、腸球菌(E. faecalis)(0.62%)、Bacillus spp.(0.59%)が上位を占めており、第1位〜6位までの菌種は2004年の年報と全く同じであった。 ○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では表皮ブドウ球菌(S. epidermidis) (1.12%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(1.03%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.94%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.55%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.53%)、C. albicans (0.36%)、Enterobacter spp.(0.24%)、Bacillus spp.(0.20%)、腸球菌(E. faecalis) (0.18%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.18%)が上位を占めていた。 ○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)18%、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)13%、大腸菌(E. coli)11%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)9%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)5%、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.4%、Enterobacter spp.3%、緑膿菌(P. aeruginosa)3%、腸球菌(E. faecalis)3%、Bacillus spp.3%、Enterobactが上位を占めており、第1位~6位までの菌種は2004年と同様であった。 ○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)15%、黄色ブドウ球菌(S. aureus)14%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)13%、肺炎球菌(S. pneumoniae)7%、インフルエンザ菌(H. influenzae)7%、C. albicans 5%が上位を占めており、第1位〜5位までの主要菌種は2004年とほぼ同様であった。 ○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia) ( 4歳以下29.4%、50歳以上52.6%)、S. agalactiae (4歳以下11.9%、50歳以上72.9%)において二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは63.5%が4歳以下の小児より分離されていた。髄液分離株の場合、大腸菌(E. coli) (4歳以下50.0%、50歳以上38.4%)において二峰性の傾向がみられた。H. influenzae では79.3%が4歳以下、S. agalactiaeでは66.7%が1歳以下の小児より分離されていた。 【薬剤感受性】 〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、66%(血液分離株で%、髄液分離株で%)であり、2000〜2004年とほぼ同様の成績であった。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ではオキサシリン(MPIPC)耐性株の頻度もそれぞれ82%と62%であり、2000〜2004年の成績とほぼ同様であった。 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では2000〜2004年と同じく全ての株が「感性」と判定された。一方、テイコプラニン(TEIC)に対しては2002年に1%の株が「耐性」であったが、2005年は2002年を除く各年と同様、全ての株が「感性」であった。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられている。今回の調査では表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)において1%の株がVCMに対して「感性」と判定された。また、テイコプラニン(TEIC)に対しては、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の5%(I:4%、R:1%)(2001年:3%、2002年3%、2003年2%、2004年4%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の3%(I:2%、R:1%)(2001年2%、2002年4%、2003年5%、2004年3%)が耐性株であった。 ○ 腸球菌に関しては1996年にVanA型のVCM耐性E. faeciumが分離され、その後1999年にはVanB型のバンコマイシン(VCM)耐性E. faecalisの集団発生が報告されているが、国内での発生はまだ低いと考えられる。バンコマイシン(VCM)に対しては2000〜2004年の年報と同様E. faecalisの全ての菌株が「感性」と判定され、E. faeciumは2004年を除く各年同様、全ての株が「感性」と判定された(2004年は1%の株が「耐性」)。テイコプラニン(TEIC)に対しては、E. faecalis、E. faeciumともに全ての株が「感性」と判定された。 ○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は40%(PISP:31%、PRSP:9%)であり、2004年と比べるとPISPが15%減少していたが、PRSPの頻度はほぼ同等であった。エリスロマイシン(EM) 耐性株の割合は79%であり、2001〜2004年と同様であった。レボフロキサシン(LVFX) 耐性株の割合も2%であり、2001〜2004年と同様であった。 ○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は46%であり、2002年(41%)、2003年(36%)、2004年(48%)とほぼ同様で、2001年(18%)と比べると大幅に増加した。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。 ○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。2005年の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株3%、セフタジジム(CAZ)耐性株1%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株8%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株6%で2004年の成績とほぼ同様であった。一方、肺炎桿菌(K. pneumoniae)はセフォタキシム(CTX)耐性株1%、セフタジジム(CAZ)耐性株1%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株3%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株6%と2004年と比べるとCTRX耐性株の割合が半減していた。 ○ ニュ−キノロン系抗菌薬に対しては、2004年の調査では大腸菌(E. coli)の場合、耐性株の頻度はレボフロキサシン(LVFX)に対して17%、シプロフロキサシン(CPFX)に対して18%であり、レボフロキサシン(LVFX)耐性株は年々微増していた(2001年10%、2002年11%、2003年13%、2004年14%)。肺炎桿菌(K. pneumoniae)の耐性株の頻度は、レボフロキサシン(LVFX)に対して2%、シプロフロキサシン(CPFX)に対して3%であり、2000〜2004年とほぼ同様で成績であった。 ○ 緑膿菌(P. aeruginosa)では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。2005年の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は23%であり、2000〜2004年の調査とほぼ同様の結果であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合は3%であった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。 ○ 緑膿菌(P. aeruginosa)のアミカシン(AMK)耐性株とシプロフロキサシン(CPFX)耐性株の頻度はそれぞれ7%と16%であり、2000〜2004年の調査とほぼ同様の結果であった。 ○ アシネトバクター(Acinetobacter spp.)、バークホルデリア・セパシア(B. cepacia)、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(S. maltophilia)は、いずれも院内感染の原因となる主要なブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌である。バークホルデリア・セパシア(B. cepacia)、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(S. maltophilia)は多剤耐性化の傾向が強く、バークホルデリア・セパシア(B. cepacia)の場合、有効な薬剤はメロペネム(MEPM)(耐性株40%)、セフタジジム(CAZ) (耐性株19%)、ミノマイシン(耐性株26%)、ST合剤(耐性株8%)に限られていた。一方、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(S. maltophilia)では有効な薬剤はミノマイシン(耐性株1%)とST合剤(耐性株11%)のみであった。 表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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