【全入院患者サーベイランスの目的】
院内感染対策サーベイランスの一環として、全国の200床以上の病院のうち本サーベイランスの趣旨に賛同して参加を希望した医療機関の協力を得て、院内感染対策に問題となりうる薬剤耐性菌による感染症患者の発生動向等のデータの提供を受け、患者の基礎疾患その他の背景因子、関連因子等を解析した結果を参加医療機関に還元し、また解析結果の要点を広く一般に公開することにより、全国の医療機関において実施されている院内感染対策を支援することを目的とする。
調査対象菌種としてMRSA、PRSP、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌、多剤耐性緑膿菌、VRE、VRSA、その他危険と思われる薬剤耐性菌を選び、これらの耐性菌による感染患者情報を収集し、データの集計・解析を行い、季報・年報として要点を公表する。年報としては以下の内容を公表する。
【解説】
今回の年報(2004年1〜12月)では、調査参加施設数は72施設で、調査対象となった総入院患者数は655,884名であった。そのなかで薬剤耐性菌による感染症を引き起こした患者数は4,323名であった。薬剤耐性菌別では、MRSA感染症患者は3,899名で、MRSAと多剤耐性緑膿菌との混合感染症患者は77名、MRSAとメタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌との混合感染症患者は1名であった。PRSP感染症患者は149名、多剤耐性緑膿菌感染症患者は85名、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌感染症患者は26名であった。VRE、VRSA感染症の報告はなかった。
感染症患者数を総入院患者数で除した感染率(‰)は6.59‰で、新規感染者数を総入院患者数から継続感染患者数を引いた数で除した罹患率(‰)は、5.04‰であった。耐性菌別の感染率、罹患率はそれぞれMRSA感染症では5.94‰、4.50‰、PRSP感染症では0.23‰、0.22‰、多剤耐性緑膿菌感染症では0.13‰、0.09‰であった。
感染症患者の性別はMRSA感染症患者及びPRSP感染症患者ともに60%以上が男性であった。年齢別ではMRSA感染症患者の60%以上が70歳以上であったが、PRSP感染症では10歳未満が約35%と低年齢層に多かった。
薬剤耐性菌による感染症名の内訳は、MRSA感染症については肺炎が最も多く42.1%で、次いで菌血症(12.2%)、手術創感染(11.3%)、皮膚・軟部組織感染(8.1%)の順であった。PRSP感染症については肺炎(77.2%)、肺炎以外の呼吸器感染(8.1%)、菌血症(8.1%)の順であった。 薬剤耐性菌による感染症患者全体の基礎疾患名の内訳は、循環器系疾患が最も多く18.5%、次いで悪性腫瘍(16.3%)、呼吸器系疾患(12.9%)、神経系疾患(11.5%)、消化器系疾患(9.2%)の順であった。MRSA感染症患者では同様の傾向であった。 診療科別内訳は感染症患者全体では内科系50%、外科系49%であり、MRSA感染症患者でも同様の傾向を示したが、PRSP感染症患者では内科系が82%を占めた。 感染症患者の体温分布を見ると、MRSA感染症患者では37.1℃以上〜38.9℃未満が54.8%と最も多く、39℃以上の19.4%を合わせて37.1℃以上が74.2%で、37℃以下は17.8%であった。PRSP感染症患者では37.1℃以上〜38.9℃未満が48.3%、39℃以上の31.5%と合わせると37.1℃以上が79.8%で、37℃以下が8.7%であった。白血球数分布ではMRSA感染症患者、PRSP症患者とも10,001μL以上が半数を占めた。CRP値分布ではMRSA感染症患者において10.1mg/dL以上は39.5%を占め、PRSP感染症患者では43.0%であった。
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表1.サーベイランス参加施設の規模内訳
表2.薬剤耐性菌別感染症及び罹患患者数の内訳
表3.感染症及び罹患患者の性別内訳
表4.感染症及び罹患患者の年齢別内訳
表5.感染症及び罹患患者の感染症名内訳
表6.感染症及び罹患患者の基礎疾患名内訳
表7.感染症及び罹患患者数の診療科内訳
表8.感染症及び罹患患者の体温分布
表9.感染症及び罹患患者の白血球数分布
表10.感染症及び罹患患者のCRP値分布 |
なお、集計不能なデータを除いたため、表によって計が異なる場合があります。
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