概要 (2003年分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。
【検 体】
○ 2003年に全国の医療機関より報告された検体数は165,173件(血液146,579件(265施設)、髄液18,594件(233施設))であり、2002年よりも約6,000件増加した。
○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は15.1%(血液検体で16.3%、髄液検体で5.4%)で、全体の陽性率は2002年とほぼ同等であった。
【分離頻度】
○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では黄色ブドウ球菌(S. aureus)(3.41%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.52%)、大腸菌(E. coli)(2.11%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.70%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.87%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.75%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.68%)、腸球菌(E. faecalis)(0.65%)、Bacillus spp.(0.55%)、Enterobacter spp.(0.50%)が上位を占めていた。
○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では表皮ブドウ球菌(S. epidermidis) (0.94%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(0.76%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.71%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.53%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.48%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.25%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.18%)、腸球菌(E. faecalis)(0.16%)が上位を占めていた。
○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)19%、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)14%、大腸菌(E. coli)12%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)9%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)5%、緑膿菌(P. aeruginosa)4%、腸球菌(E. faecalis)4%、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.4%、Enterobacter spp.3%、 Bacillus spp.3%が上位を占めていた。
○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)17%、黄色ブドウ球菌(S. aureus)13%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)13%、インフルエンザ菌(H. influenzae)9%、肺炎球菌(S. pneumoniae)9%、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.5%が上位を占めていた。
○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia) ( 4歳以下31.2%、50歳以上46.1%)、S. agalactiae (4歳以下17.2%、50歳以上62.2%) において二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは65.7%が4歳以下の小児より分離されていた。髄液分離株の場合もH. influenzae は83.7%が4歳以下の小児より分離されていた。また、大腸菌(E. coli) (4歳以下37.5%、50歳以上41.7%)、S. agalactiae (1歳未満60.9%、50歳以上21.7%)では二峰性の傾向がみられた。
【薬剤感受性】
〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕
○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、67%(血液分離株で67%、髄液分離株で62%)であり、2000年、2001年、2002年とほぼ同様の成績であった。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ではオキサシリン(MPIPC)耐性株の頻度もそれぞれ86%と64%であり、2000年、2001年、2002年の成績とほぼ同様であった。
○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では2000年、2001年、2002年と同じく全ての株が「感性」と判定された。一方、テイコプラニン(TEIC)に対しては2002年に1%の株が「耐性」であったが、2003年は2000年、2001年と同様、全ての株が「感性」であった。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、今回の調査では、表皮ブドウ球菌で6株、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の8株がVCMに対して「耐性」と判定された。また、テイコプラニン(TEIC)表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の2%(I:2%)(2001年:3%、2002年3%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の5%(I:4%、R:1%)(2001年2%、2002年4%)が耐性株であった。
○ 腸球菌に関しては1996年にVanA型のVCM耐性E. faeciumが分離され、その後1999年にはVanB型のバンコマイシン(VCM)耐性E. faecalisの集団発生が報告されているが、国内での発生はまだ低いと考えられる。2000〜2002年の年報と同様E. faecalisの全ての菌株がバンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)に対して「感性」と判定された。一方、E. faeciumはテイコプラニン(TEIC)に対して1%(I:1%)の株が「耐性」と判定された(2000年、2001年は全ての株が「感性」)。
○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は53%(PISP:38%、PRSP:15%)であり、2002年(57%)とほぼ同様で、2001年(47%)と比べると増加していた。エリスロマイシン(EM) 耐性株の割合は78%で、2001年(72%)、2002年(70%)と同様であった。レボフロキサシン(LVFX) 耐性株の割合も2%で、2001年(5%)、2002年(2%)と同様であった。
○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は36%で、2002年(41%)とほぼ同様であったが、2001年(18%)と比べると大幅に増加していた。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。
○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。2002年の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株2%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株7%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株19%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株1%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株2%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株20%と2000〜2002年の成績とほぼ同様であり、セフトリアキソン(CTRX)に対する耐性株の多さが目立った。しかし、季報では2003年7〜9月以降、セフトリアキソン(CTRX)耐性株の割合は大腸菌(E. coli)で0〜2%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)で7〜10%と著減している。この減少については特定の施設からのデータに判定ミスがあり、今まで「感性」であった株を「耐性」と報告していた可能性がある。
○ ニュ−キノロン系抗菌薬に対しては、2002年の調査では大腸菌(E. coli)の場合、耐性株の頻度はレボフロキサシン(LVFX)に対して13%、シプロフロキサシン(CPFX)に対して16%であり、レボフロキサシン(LVFX)耐性株は年々微増しており、一方、シプロフロキサシン(CPFX)耐性株は微減していた。肺炎桿菌(K. pneumoniae)の耐性株の頻度は、レボフロキサシン(LVFX)に対して1%、シプロフロキサシン(CPFX)に対して6%であり、2000〜2002年とほぼ同様で成績であった。
○ 緑膿菌(P. aeruginosa)では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。2001年の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合25%であり、2000〜2002年の成績とほぼ同様の結果であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合も血液分離株と髄液分離株を合計した場合3%で、2000〜2002年の調査と同様の結果であった。あった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。
○ 緑膿菌(P. aeruginosa)のアミカシン(AMK)耐性株とシプロフロキサシン(CPFX)耐性株の頻度はそれぞれ9%と22%であり、2000〜2002年の調査とほぼ同様の結果であった。
表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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