概要 (2002年分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。 【検 体】
○ 2002年に全国の医療機関より報告された検体数は159,846件(血液138,634件(276施設)、髄液21,212件(245施設))であり、2002年よりも約15,000件増加した。 ○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は14.4%(血液検体で15.8%、髄液検体で5.4%)で、全体の陽性率は2000年と全く同じであった。 【分離頻度】 ○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では黄色ブドウ球菌(S. aureus)(2.57%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.52%)、大腸菌(E. coli)(1.33%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.12%)、腸球菌(E. faecalis)(0.64%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.54%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.51%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.43%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.35%)、Bacillus spp.(0.35%)が上位を占めており、2000年、2001年とも第1位〜4位まで菌種は全く同じであった。 ○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.02%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.74%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(0.71%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.59%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.41%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.27%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.24%)、腸球菌(E. faecalis)(0.20%)、Bacillus spp.(0.15%)が上位を占めており、主要菌種とその分離頻度は2001年とほぼ同様であった。 ○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)18%、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)13%、大腸菌(E. coli)11%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)9%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)5%、緑膿菌(P. aeruginosa)4%、腸球菌(E. faecalis)4%、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.4%、Enterobacter spp.3%、 Bacillus spp.3%であり、第1位〜5位までの菌種は2000年、2001年と全く同じであった。 ○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)17%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)13%、黄色ブドウ球菌(S. aureus)12%、肺炎球菌(S. pneumoniae)10%、インフルエンザ菌(H. influenzae)7%であり、2000年、2001年と同様の菌種が上位を占めていた。特に第1位〜5位までの菌種は2001年と全く同じであった。 ○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia) ( 4歳以下20.8%、50歳以上48.1%)、S. agalactiae (4歳以下20.1%、50歳以上50.0%)、B. cepacia (4歳以下15.5%、50歳以上63.9%) において2000年、2001年と同様、二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは67.3%が4歳以下の小児より分離されていた。髄液分離株の場合もH. influenzae は71.1%が4歳以下の小児より分離されていた。また、大腸菌(E. coli) (4歳以下53.3%、50歳以上26.7%)、S. agalactiae (1歳未満59.1%、50歳以上13.6%)では二峰性の傾向がみられた。 【薬剤感受性】 〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、65%(血液分離株で65%、髄液分離株で64%)であり、2000年、2001年とほぼ同様の成績であった。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ではオキサシリン(MPIPC)耐性株の頻度もそれぞれ86%と67%であり、2000年、2001年の成績とほぼ同様であった。 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では2000年、2001年と同じく全ての株が「感性」と判定された。一方、テイコプラニン(TEIC)に対しては99%の株が「感性」であった(2000年、2001年は全ての株が「感性」)。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、今回の調査では表皮ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌のそれぞれ3株がVCMに対して「耐性」と判定された。また、テイコプラニン(TEIC)に対しては2000年、2001年とほぼ同様で、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の3%(I:2%、R:1%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の4%(R:4%)が耐性株であり、2000年とほぼ同様の成績であった。 ○ 腸球菌に関しては1996年にVanA型のVCM耐性E. faeciumが分離され、その後1999年にはVanB型のバンコマイシン(VCM)耐性E. faecalisの集団発生が報告されているが、国内での発生はまだ低いと考えられる。2002年の調査でも2000年、2001年と同様E. faecalisの全ての菌株がバンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)に対して「感性」と判定された。一方、E. faeciumはテイコプラニン(TEIC)に対して2%の株が「耐性」と判定された(2000年、2001年は全ての株が「感性」)。 ○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は57%(PISP:39%、PRSP:18%)であり、2001年(47%)と比べると大幅に増加した。エリスロマイシン(EM) 耐性株の割合は70%であり、2001年(72%)と同等であった。レボフロキサシン(LVFX) 耐性株の割合は2%であり、2001年(5%)と同等であった。 ○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は41%であり、2001年(18%)と比べると大幅に増加した。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。 ○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。2002年の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株1%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株6%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株26%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株3%、セフタジジム(CAZ)耐性株5%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株2%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株28%と2000年、2001年の成績とほぼ同様であり、セフトリアキソン(CTRX)に対する耐性株の多さが目立った。 ○ ニュ−キノロン系抗菌薬に対しては、2002年の調査では大腸菌(E. coli)の場合、耐性株の頻度はレボフロキサシン(LVFX)に対して11%、シプロフロキサシン(CPFX)に対して18%であり、2000年、2001年の調査とほぼ同様であった。肺炎桿菌(K. pneumoniae)の耐性株の頻度も大腸菌(E. coli)とほぼ同様であり、はそれぞれ2%、14%であった。 ○ 緑膿菌(P. aeruginosa)では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。2001年の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合22%であり、2000年、2001年の調査とほぼ同様の結果であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合も血液分離株と髄液分離株を合計した場合5%で、2000年、2001年の調査と同様の結果であった。あった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。 ○ 緑膿菌(P. aeruginosa)のアミカシン(AMK)耐性株とシプロフロキサシン(CPFX)耐性株の頻度はそれぞれ9%と27%であり、2000年、2001年の調査とほぼ同様の結果であった。 表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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