概要 (2000年分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。なお、事業開始が2000年7月からであるので、2000年の年報は7〜12月までの集計・解析結果である。また、7〜9月は本事業をサポートする研究班に所属している施設(血液12施設、髄液10施設)のみが、事業に参加した。 【検 体】 ○ 2000年に全国の医療機関より報告された総数36,155件(血液31,580件(252施設)、髄液4,575件(218施設))の血液及び髄液検体から分離された菌種について集計・解析が行われた。 ○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は14.7%(血液検体で15.9%、髄液検体で6.4%)であった。 【分離頻度】 ○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では黄色ブドウ球菌(S. aureus)(2.90%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(2.46%)、大腸菌(E. coli)(1.74%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.68%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(1.02%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.84%)、腸球菌(E. faecalis)(0.64%)、C. albicansを除くCandida spp.(0.62%)、Enterobacter spp.(0.55%)が上位を占めていた。 ○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.40%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(0.90%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.87%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.74%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.52%)が上位を占めていた。 ○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)17%、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)14%、大腸菌(E. coli)10%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)10%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)6%、緑膿菌(P. aeruginosa)5%、腸球菌(E. faecalis)4%、C. albicansを除くCandida spp.4%、Enterobacter spp.3%であった。 ○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)14%、黄色ブドウ球菌(S. aureus)13%、インフルエンザ菌(H. influenzae)12%、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)11%、肺炎球菌(S. pneumoniae)7%であった。 ○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia)において二峰性の傾向がみられた(S. pneumoniae 4歳以下22.5%、50歳以上41.5%)。S. agalactiae (4歳以下18.0%、50歳以上46.2%)、S. maltophilia (4歳以下26.1%、50歳以上50.0%)、B. cepacia (4歳以下13.3%、50歳以上56.7%) でも同様の傾向がみられた。H. influenzaeでは62.8%が4歳以下の小児より分離されていた。髄液分離株の場合もH. influenzae は77.5%が4歳以下の小児より分離されていた。 【薬剤感受性】 〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、69%(血液分離株で69%、髄液分離株で76%)であった。 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では全ての株が「感性」と判定された。 ○ 表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、2000年の調査では表皮ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌のそれぞれ1株のみがVCMに対して「耐性」と判定された。 ○ 腸球菌に関しては1996年にVanA型のVCM耐性E. faeciumが分離され、その後1999年にはVanB型のVCM耐性E. faecalisの集団発生が報告されているが、国内での発生はまだ低いと考えられる。2000年の調査でもE. faecalis、E. faeciumの全ての菌株がVCMに対して「感性」と判定された。 ○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合わせて63%であり、近年報告されているペニシリン耐性株の割合は約50%であり、それらの報告と比べると高めであった。 ○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合も血液分離株と髄液分離株を合わせて52%で従来の報告よりも高い頻度であった。 ○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。2000年の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株1%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株4%、セフタジジム(CAZ)耐性株2%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株0%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株14%であった。 ○ 緑膿菌では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。2000年の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合25%であり、欧米の調査と同様の結果であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合5%であった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。 表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
|