概要 (2006年1・2・3月分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。 【検 体】
○ 2006年1〜3月の間に全国の医療機関より報告された検体数は総数63,402件(血液58,690件(193施設)、髄液4,712件(164施設))であり、2005年10〜12月の季報とほとんど同様であった。 ○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は10.8%(血液検体で11.3%、髄液検体で4.5%)で従来の成績よりも総検体、血液検体、髄液検体とも陽性率は約2%減少した。 【分離頻度】 ○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(3.02%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(2.03%)、大腸菌(E. coli)(1.41%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.29%)、腸球菌(E. faecalis)(0.53%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.52%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.45%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.43%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.41%)、Bacillus spp.(0.33%)が上位を占め、第1〜4位までの菌種は前回(2005年10〜12月)と全く同様であった。 ○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(0.93%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(0.89%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.76%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.47%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.45%)が上位を占めており、この時期には例年同様、肺炎球菌の頻度の増加がみられた。 ○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(22%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(16%)、大腸菌(E. coli)(11%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(9%)、、腸球菌(E. faecalis)(4%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(4%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(3%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(3%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(3%)、Bacillus spp.(2%)が上位を占めており、大腸菌は著明に増加していた。 ○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(18%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(17%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(14%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(9%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(8%)であり、この時期には例年同様、肺炎球菌の頻度の増加がみられた。 ○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia)(4歳以下18.2%、50歳以上65.5%)において二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは73.7%が4歳以下の小児より分離されていた。髄液分離株の場合では、H. influenzaeにおいて76.2%が4歳以下の小児より分離されていた。 【薬剤感受性】 〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、68%(血液分離株で69%、髄液分離株で768%)で、全体では従来の成績と同じであった。 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では全ての株が「感性」と判定された。テイコプラニン(TEIC)に対しても全ての株が「感性」と判定された。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、今回の調査では、バンコマイシン(VCM)耐性株はみられなかった。テイコプラニン(TEIC)に対しては表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の3%(I:2%、R:1%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の2%(I:1%、R:1%)が耐性株であった。 ○ 腸球菌に関しては2005年10〜12月の成績とほとんど同様でE. faecalisの93%がアンピシリン(ABPC)に感性であった。VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)はE. faeciumではみられなかったが、E. faecalisの1%がVREであった。テイコプラニン(TEIC)に対してもE. faecalis、E. faeciumとも全ての株が「感性」であった。 ○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は40%(PISP33%、PRSP7%)で耐性株の頻度は従来の成績より約15%減少した。 ○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は、菌株数が15株と少なかったことから25%と従来の成績より大幅に減少していた。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。 ○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。今回の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株5%、セフタジジム(CAZ)耐性株2%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株11%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株0%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株3%、セフタジジム(CAZ)耐性株4%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株0%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株31%であり、CTRX耐性株が大幅に増加した。 ○ 緑膿菌では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。今回の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は22%で、今までの成績とほとんど同様であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合は2%であった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。 表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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