概要 (2003年7・8・9月分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。 【検 体】
○ 2003年7〜9月の間に全国の医療機関より報告された検体数は総数59,889件(血液52,975件(234施設)、髄液6,914件(198施設))であり、2003年4〜6月の季報とほぼ同数であった。
○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は12.9%(血液検体で14.1%、髄液検体で4.0%)で2003年4〜6月に比べ、総検体陽性率、血液検体陽性率で約1%増加しており、髄液検体では1%減少していた。
【分離頻度】
○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では黄色ブドウ球菌(S. aureus)(2.94%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(2.26%)、大腸菌(E. coli)(1.73%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.52%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.71%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.69%)、Bacillus spp. (0.55%)、C. albicansを除くCandida spp.(0.55%)、腸球菌(E. faecalis)(0.54%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.52%)が上位を占め、第1〜5位までの菌は前回(2003年4〜6月)と全く同様であった。
○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(0.72%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.56%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(0.55%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.32%)が上位を占めていたが、肺炎球菌(S. pneumoniae)の分離頻度はそれぞれ0.09%であり、前回(0.36%)、前々回(0.64%)より大幅に減少した。
○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(19%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(14%)、大腸菌(E. coli)(11%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(10%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(5%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(4%)、腸球菌(E. faecalis)(3%)、Bacillus spp. (3%)、C. albicansを除くCandida spp.(3%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(3%)と菌種名と分離頻度は2003年4〜6月の成績とほとんど同様であり、第1位〜5位までの菌種は全く同じであった。
○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(17%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(13%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(12%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(7%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(4%)などであり、肺炎球菌(S. pneumoniae)と腸球菌(E. faecalis)が分離頻度の多い菌種からはずれた。
○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia)(4歳以下42.0%、50歳以上44.0%)、S. agalactiae (4歳以下20.3%、50歳以上62.7%)、S. maltophilia (4歳以下13.3%、50歳以上58.4%)において二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは60.6%が4歳以下の小児より分離されていた。また、髄液分離株の場合はH. influenzae の73.9%が4歳以下の小児より、S. agalactiaeの54.5%が1歳未満の乳児より分離されていた。
【薬剤感受性】
〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕
○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、68%(血液分離株で69%、髄液分離株で36%)で全体では2003年4〜6月の成績とほとんど同様であったが、髄液分離株は菌株数が少ない(17株)ので半減した。
○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では全ての株が「感性」と判定された。テイコプラニン(TEIC)に対しても全ての株が「感性」と判定された。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、今回の調査では、バンコマイシン(VCM)に対して表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の2株、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の3株が「耐性」と判定された。また、テイコプラニン(TEIC)に対しては表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の2%(I:2%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の4%(I:2%、I or R:1%、R:1%)が耐性株であった。
○ 腸球菌に関しては2003年4〜6月の成績とほとんど同様でE. faecalisの92%がアンピシリン(ABPC)に感性であった。VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)は今回の報告でもE. faecalisではみられなかった。一方、E. faeciumでは3%(R:3%)が耐性であった。テイコプラニン(TEIC)に対してはE. faecalis、E. faeciumとも全ての株が「感性」であった。
○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合わせて52%であった。
○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は32%で2003年1〜3月の成績とほぼ同様であった。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。
○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。今回の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株2%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株4%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株2%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株3%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株1%、セフトリアキソン(CTRX)に対する耐性株の頻度が大幅に減少した。この減少については特定の施設からのデータに判定ミスがあり、今まで「感性」であった株を「耐性」と報告していた可能性がある。
○ 緑膿菌では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。今回の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合27%で、2003年4〜6月の成績とほとんど同様であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合2%と2003年4〜6月の成績とほとんど同様であった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。
表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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