概要 (2002年10・11・12月分)
○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。 【検 体】
○ 2002年10〜12月の間に全国の医療機関より報告された検体数は総数60,189件(血液54,001件(257施設)、髄液6,188件(213施設))であり、前回の季報とほぼ同数で前々回より約10,000件、さらにその前の季報よりも約12,000件多かった。
○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は11.2%(血液検体で11.9%、髄液検体で5.6%)で前々回の季報とほぼ同様の成績であった。
【分離頻度】
○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では黄色ブドウ球菌(S. aureus)(2.75%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.74%)、大腸菌(E. coli)(1.40%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.04%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.65%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.61%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.46%)、腸球菌(E. faecalis)(0.42%)、Enterobacter spp.(0.39%)が上位を占め、第1〜6位までの菌は前回(2002年7〜9月)と全く同様であった。菌種別の分離頻度もほとんど変わっていなかった。
○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.07%)、、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(1.00%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.55%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.47%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.44%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.32%)、腸球菌(E. faecalis)(0.27%)と上位を占めていた菌は前回(2002年7〜9月) とほとんど変わっていなかったが、インフルエンザ菌(H. influenzae)の頻度が大幅に増加した。
○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(21%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(13%)、大腸菌(E. coli)(11%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(8%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(5%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(5%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(3%)、腸球菌(E. faecalis)(3%)、Enterobacter spp.(3%)と菌種名と分離頻度は2002年7〜9月の成績とほとんど同様であった。特に第1〜6位までの菌は全く同様であった。
○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(17%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(16%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(9%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(8%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(7%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(5%)、腸球菌(E. faecalis)(4%)が上位を占めており、菌種は2002年7〜9月の成績とほとんど同様であったが、黄色ブドウ球菌(S. aureus)は分離頻度が9%から16%へと前回よりも大幅に増加していた。
○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia)(4歳以下23.1%、50歳以上49.4%)、Acinetobacter spp. (4歳以下30.9%、50歳以上51.0%)、S. agalactiae (4歳以下15.3%、50歳以上57.6%)、B. cepacia(4歳以下35.2%、50歳以上38.9%)において二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは72.4%が4歳以下の小児より分離されていた。Acinetobacter spp.とB. cepaciaでの二峰性は今回初めて報告された。また、髄液分離株の場合はH. influenzae の65.5%が4歳以下の小児より分離され、肺炎球菌(S. pneumonia)では二峰性がみられた(4歳以下22.6%、50歳以上32.2%)。
【薬剤感受性】
〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕
○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、63%(血液分離株で63%、髄液分離株で60%)で前々回と前回よりも若干低い値であった。
○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では全ての株が「感性」と判定された。テイコプラニン(TEIC)に対しても全ての株が「感性」と判定された。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、今回の調査では表皮ブドウ球菌で2株、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で1株のみがVCMに対して「耐性」と判定された。また、テイコプラニン(TEIC)に対しては表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)の2%(I:2%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の5%(I:4%、R:1%)が耐性株であった。
○ 腸球菌に関してはE. faecalisの93%がアンピシリン(ABPC)に感性であった。VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)は前々回、前回の季報と同様E. faecalis 、E. faeciumともにみられなかった。
○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合わせて56%であった。
○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は30%で前々回、前回の季報に比べて減少した。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。
○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。今回の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株1%、セフタジジム(CAZ)耐性株4%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株8%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株3%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株2%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株25%で2002年7〜9月の成績とほとんど同様で、セフトリアキソン(CTRX)に対する耐性株の多さが目立った。
○ 緑膿菌では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。今回の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合14%であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合4%と2002年7〜9月の成績とほとんど同様であった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。 表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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