概要 (2002年1・2・3月分) ○ 本サーベイランスは、参加医療機関において血液および髄液から分離された各種細菌の検出状況や薬剤感受性パターンの動向を把握するとともに、新たな耐性菌の早期検出等を目的とする。これらのデータを経時的に解析し臨床の現場に還元することによって、抗菌薬の安全で有効な使用方法や院内感染制御における具体的かつ確実な情報を提供する。 【検 体】
○ 2002年1〜3月の間に全国の医療機関より報告された検体数は総数49,276件(血液43,659件(254施設)、髄液5,617件(214施設))であり、前回の報告(2001年10〜12月季報)とほぼ同様の結果であった。 ○ 検体から菌が分離された頻度(検体陽性率)は10.7%(血液検体で11.5%、髄液検体で5.1%)で、2001年10〜12月の成績よりやや低い値であった。 【分離頻度】 ○ 血液検体総数に対する主要分離菌の頻度では黄色ブドウ球菌(S. aureus)(2.57%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.52%)、大腸菌(E. coli)(1.33%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(1.12%)、腸球菌(E. faecalis)(0.64%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.54%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(0.51%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.43%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.35%)、Bacillus spp.(0.35%)が上位を占めていた。 ○ 髄液検体総数に対する主要分離菌の頻度では表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(1.09%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(0.75%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(0.69%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(0.66%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(0.43%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(0.30%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(0.20%)が上位を占めていた。 ○ 血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(21%)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(12%)、大腸菌(E. coli)(11%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(9%)、腸球菌(E. faecalis)(5%)、S. pyogenes、S. agalactiae、S. pneumoniaeを除くStreptococcus spp.(4%)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)(4%)、緑膿菌(P. aeruginosa)(3%)が上位を占めており、菌種名と分離頻度は2001年10〜12月の成績とほとんど同様であった。 ○ 髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度では、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(19%)、表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(14%)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)(12%)、肺炎球菌(S. pneumoniae)(11%)、インフルエンザ菌(H. influenzae)(7%)が上位を占めており、菌種名と分離頻度は2001年10〜12月の成績とほとんど同様であった。 ○ 年齢階層別では血液分離株の場合、肺炎球菌(S. pneumonia)(4歳以下12.3%、50歳以上51.8%)、S. agalactiae (4歳以下25.5%、50歳以上45.5%)、S.maltophilia (4歳以下12.5%、50歳以上43.8%)において二峰性の傾向がみられた。H. influenzaeでは54.6%が4歳以下の小児より分離されていた。また、髄液分離株の場合はH. influenzae の62.5%が4歳以下の小児より分離されていた。 【薬剤感受性】 〔“微量液体希釈法(MICで報告されているもの)”のみ対象とした〕 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のMRSAの割合はオキサシリン(MPIPC)の成績で判断する限り、67%(血液分離株で67%、髄液分離株で63%)で、2001年10〜12月の成績とほとんど同様であった。 ○ 黄色ブドウ球菌(S. aureus)のバンコマイシン(VCM)に対する耐性頻度の調査では今回も全ての株が「感性」と判定された。 ○ 表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や表皮ブドウ球菌以外のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は欧米においてバンコマイシン(VCM)耐性株の報告がみられているが、今回の調査でも全ての株がVCMに対して「感性」と判定された。 ○ 腸球菌に関しては今回の調査でもE. faecalis、E. faeciumの全ての菌株がVCMに対して「感性」と判定された。 ○ 肺炎球菌(S. pneumonia)におけるペニシリン耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合わせて53%であり、2001年10〜12月の成績と同様、約50%であった。 ○ インフルエンザ菌(H. influenzae)におけるアンピシリン(ABPC)耐性株の割合は53%であった。なお、ABPC耐性インフルエンザ菌(H. influenzae) の原因としては、βラクタマーゼ産生株とBLNAR菌が良く知られているが、今回のサーベイランスでは明らかにできなかった。 ○ 大腸菌(E. coli)や肺炎桿菌(K. pneumoniae)では近年第三世代セフェム系抗菌薬に耐性を示すESBL産生菌が院内感染の原因菌として注目されてきている。今回の調査における第三世代セフェム系抗菌薬耐性株の割合は、大腸菌(E. coli)でセフォタキシム(CTX)耐性株2%、セフタジジム(CAZ)耐性株4%、肺炎桿菌(K. pneumoniae)でセフォタキシム(CTX)耐性株3%、セフタジジム(CAZ)耐性株3%、セフポドキシム(CPDX-PR)耐性株0%、セフトリアキソン(CTRX)耐性株18%で20あった。 ○ 緑膿菌では多剤耐性菌の動向に注意を払う必要がある。中でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すメタロβラクタマーゼ産生菌は今後広まることが危惧されている。今回の調査では緑膿菌(P. aeruginosa)のイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合25%であった。また、メタロβラクタマーゼ産生菌はセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)にもみられているが、セラチア・マルセッセンス(S. marcescens)におけるイミペネム(IPM)耐性株の割合は血液分離株と髄液分離株を合計した場合7%であった。しかし、これらのイミペネム(IPM)耐性緑膿菌(P. aeruginosa)とセラチア・マルセッセンス(S. marcescens)の中にどのくらいの頻度でメタロβラクタマーゼ産生菌が存在するのかは本サーベイランスでは明らかにできなかった。 表. 血液から分離された菌における汚染菌の頻度
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